5枚刃の髭剃り

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ES-LV7C

その男は毎朝の髭剃りにうんざりしていた。

昔ニキビが大量に発生していたその男の肌は決して強く綺麗では無く、いや正直に言えば弱く汚いものであった。

そのでこぼこした顔面に、追い討ちをかけるように不揃いの髭が毎朝毎朝生えてくるのである。

汚い顔面を少しでも清潔にしようと毎朝毎朝毎朝、その雑草のように主張が激しく刈り難い髭を電気シェーバーを駆使して、対処していくのである。その対処をしている最中に小さな吹出物を引っ掛けてしまい血が滲むこともある。うんざりだ。

昔は、そこまで髭剃りが面倒だとは感じていなかったと思う。

それは生えてくる髭の量によるのかもしれないし、年齢を重ねる度に頑固になっていく性格のように髭の性質も変わってしまったからかもしれない。そこそこ健康には気を使っているが、年齢とともに肌が弛んできて剃りにくくなっているからかもしれない。アラフォーとなった今では、髭剃りに費やす時間が、若かりし頃より3分程度伸びていることが気に食わないのだ。

さらには時間をかけて、電気シェーバーを走らせたとて、完璧に髭がなくなることもない。必ず、剃り残しがあり、それを自分や家族が気づいてしまうのだ。以前は時間をかければ、こんなことはなかったはずなのに、全くもって気に食わない。

さて、男はセールが大好きである。お得に購入するためには時間を厭わないし、逆に購入したものが他店で安く売っていたとなれば、その夜の布団の中まで懺悔の念を持ち込むくらいだ。某大型ネット書店がセールをやっている際は、ある程度の時間を割いて内容を確認することが必須であるが、その際に電気シェーバーが目にとまった。

そうか、歳をとったのは自分だけではない、電気シェーバーだってくたびれてきているのだ。

現在利用しているシェーバーを購入したのは、正確には覚えてはいないが10年程度は毎朝を共にしている。長く利用するために掃除や洗浄などのメンテナンスも行なってし、刃の交換も行なっている。しかしこいつもだいぶ歳をとってしまったのでないか。3枚刃というスペックももはや時代遅れになってしまったのではないか。

男は検索を始めた。自分の年齢は止められないが、相棒のシェーバーについては新しいモノを購入することにより性能の復活や向上が見込めるはずである。モノへの愛着はそこそこあるが、毎朝のうんざりとした気分が晴れるのであれば、相棒には引退を勧告し、そして多少の私財を投げ打つことは厭わない。

新しいパートナーを探すに当たって入念に調査が必要ではあることは頭ではわかっている。本来であれば、大型の家電量販店に赴き、誰が利用したかわからないシェーバーを使って試し剃りを何度かすべきである。しかし男にはどんなものでもお得に購入しなければならないという命題がある。

今回目にとまったシェーバーのセール期間は残りわずかである。こういう時に大きな買い物をするべきではないことを男は経験として理解していたが、検索をしてしまった結果、割引率の高さを知り、そしてあまりあてにはならないインターネット空間での星の数の多さを知り、今回も大型ネット書店の戦略にまんまとハマっていくこととなった。

購入を決断すると、男は年甲斐もなくワクワクした。購入したは、パナソニックはラムダッシュの5枚刃「ES-LV7C」というシェーバーだ。3枚から5枚に刃が増えることにより、自分は若かりし日々のように髭剃りについてなんとも思わなくなる。そう期待を膨らませていると、購入を決断した翌日には、そいつはもう男に家にやってきていた。

男は説明書に軽く目を通して、早速そいつをコンセントへと接続し命を吹き込んだ。その間、今までの3枚刃の相棒を丁寧に掃除して片付けを行った。正直特に未練はなかった。

そして充電が終わり、期待が最大限に大きくなった新しい相棒を、自分の弛んだ肌に密着させた。

シェーバーを走らせると、5枚刃になった分、肌への設置面積が増えて、一気に髭を剃っている感じがする。そして新しいからなのか、ローラーのせいなのか、非常に軽く滑らかに肌の上を走っていく。なかなか良い買い物をしたではないかと、男は鏡の前でほくそ笑み、その笑みが気持ち悪かったことで顔をしかめた。

髭剃りの音が、今までは「ジョリジョリ」だったものが「チリチリ」となったのも変化の一つである。ジョリジョリの方が力強く剃っている感じがあったが、より肌を傷つけないように優しく剃っているのはチリチリの方なのであろう。ここまでは男は大いに満足していた。

しかし、問題の髭剃りにかかる時間についてはさほど変化はない。広い面積を一気に剃っている分、時間短縮になりそうなものだが、剃り残しがないように丁寧に剃ると時間はかかってしまう。まあ今までと同じくらいの時間で、今まで以上にきちんと剃れていると思えば及第点であろう。ただ、10年間の技術的な進歩もそんなものか、と男は少しがっかりした。

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新しい相棒については、長く付き合ってみないとわからない部分が多いとは思う。例えばメンテナンス性や耐久性は1年以上使ってみないとわからない。そしてその間、男はまた歳をとる。パナソニックというメーカーが10年でなくなるとは思えないので、替え刃や洗浄液がなくなることはないと思っている。とりあえずは長く付き合ってみようではないか。

洗浄液については、カートリッジタイプではなく小分けの袋に入っているのは気に入っている。男は決してエコロジストと呼べるような活動をしているわけではないが、捨てるものは少ない方が良いには決まっている。以前に使っていた洗浄液カートリッジは捨てるのも面倒だったのだ。

男は今日も髭を剃る。

今まで同じ時間をかけて、最低限の身だしなみを整える。新しい相棒は、まだ新鮮な気持ちで付き合えているからか、比較的うんざりはしていない。

今回の買い物について総括すると、第一印象としてはなかなか良かったけど、なぜ新しいシェーバーを買ったのか本質的な部分を問われると満足度は低い。結果的に、期待が大きすぎたのかもしれないが。しかし歳をとっても、新しいモノを買った時のワクワク感が得られるのは、案外幸せなことではないかと男は思うのであった。

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