食べ放題を楽しむ

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ワンカルビ

その男は、不惑と一般的には呼ばれるくらいには落ち着いているはずの年齢だ。

若い頃の勢いはないかも知れないが、その代わりに経験が積まれてきている。なんとなく粗悪なものと、良質なものの区別を付けられるようになった気がしている。そして、自分の財力に見合う程度の良質なもので、身の回りを固めたいとも思っている。

つまりは、安物をたくさん買うよりも、高い物を少量揃えたいのだ。そして食べ物も同様である。如何に安価に空腹を満たすか、ということは最近は全く考えてなく、身体によく美味しいと思えるものを食したいと考えるようになっている。男は良い歳なのである。

その考えからは、ビュッフェスタイルのお店からは最近遠ざかっていた。昔は好きだった食べ放題の先駆けである「すたみな太郎」とかは今では全く食指が動かない。それならば少しお高めの回転寿司で好きなネタを少量食べた方が良いと思えるのだ。

そんな男でも、少し気になる食べ放題のお店があった。ワンカルビというまだ関東では馴染みのない焼肉屋さんだ。初めはテレビ番組でその名前を聞いたのだと思う。その店が比較的近所にオープンするということを知り、WEBで調べてみて俄然興味が出てきていたのだ。口コミがすごく良いのだ。

男は、自分で調べた口コミ情報に弱い。”食べ放題にしては”とても美味しいとか、ワンランク上の体験と書かれていたが、もはや素晴らしいという文字以外は頭に入ってこなかった。歳を重ねても、男は単純な生物なのだ。

そうなると男の行動は早い。早速予約サイトのEPARKを駆使しつつ、妻を巻き込んでワンカルビへと出向いていった。

ワンカルビ2

結論から言うとワンカルビは凄く良かった。ワンカルビは単に質のいい肉や料理を提供している焼肉レストランだと思ったら大間違いだった。ここは焼肉テーマパークなのだ。

まずは、空間。上品で明るく、 清潔感があった。オフホワイトのゆとりある半個室風の席。当然野暮な肺炎のための換気扇などは見えない。店内についても床のベタベタした感じや、独特の匂いや油の気配が無いのだ。高級店に来たかのような雰囲気に男の期待はどんどん膨らんでいく。

更に元気で丁寧な接客。どの店員さんも若くてにこやかなのが好印象である。オープン間もない店舗なはずなのに、教育が行き届いているように感じた。

そして、事前に知ってはいたが、料金設定にも関心させらた。

すべてのメニューが食べ放題の3580円コースと、メニューを絞っているがメインの料理が食べ放題の 3080円の2コースが基本なっているが、更に年齢による割引があるのだ。

  • 3歳以下(フリー):無料(無料)
  • 4〜6歳(キッズ):500円(430円)
  • 小学生(ジュニア):1790円(1540円)
  • 50歳代(ミドル):3220円(2770円)
  • 60歳代(シニア):2860円(2460円)
  • 70歳以上(シルバー):2500円(2150円)

(カッコ内は通常3080円のコースの値段)

この年齢別の値段設定の納得感はとても大きい。ホテルなどのビュッフェだと、メニューに関してはすべての世代向けにそれらしい料理が並ぶものの、やはり胃袋には年齢的な限界があり、均一料金のビュッフェは損をしてしまうと言うイメージを持っている人が多いだろう。

しかし、上質な肉を、値段を気にせず好きなだけ食べたいと思うのに年齢は関係ないのだ。老いも若きも皆、自分の胃袋なりに食べたい。そんな人たちにこの値段設定は、とても響くだろう。男自身は割引対象の年齢ではないが、シルバー世代の親やキッズを連れて行く場合には大いに助かる。

そして、なんと言っても、メニューが楽しい。

選ぶ楽しさは格別だ。そういった意味では、95品から選べる3580円のコースの方が満足度が高い。両方のコースを試した男にとって、次回行くとしたらやはり3580円のコースだと思っている。

3580円のコースの中では「焼きすき焼き」というメニューが特に気に入っている。甘辛い焼肉のタレが染み込んでいる、うすーい上ロースの肉を軽く炙り、生卵にくぐらせる。確かに、焼肉なのに、口の中は完全にすき焼きだ。何より、薄い肉というのが、いくらでも食べれそうに思えるし、生卵にくぐらせる事で、焼肉のタレに飽きていた口の中が、一気にリセットされるのだ。

そのほか上カルビ、上ハラミステーキ、サガリステーキ(トリュフ香る贅沢ソースで)、特製スピニングサラダ(チョレギサラダ)など、普段あまり拝見しない高級感溢れるメニューが目移りするぐらいたくさんあるのだ。

しかし、3080円コースも負けてはいないと男は思っている。全48品からのメニューだが、基本を押さえて、価格も抑えたバランスに良い構成だ。

肉は、「上」が付かない、ロースやカルビ、ハラミだが、どれも綺麗な色で、程よい弾力や柔らかさがあり、油もしつこくなく、沢山食べられるものだった。その中でも店の名前にもなっている「ワンカルビ」は格別だ。分厚いカルビの塊を焼き、油が落ち、炎が上がると、半分くらい火が通っている。そこで、ハサミで切り分けさらに好みの焼き加減まで焼き続ける。肉は余計な油は落ちているからしつこくないし、厚みがあるが、お年寄りでも嚙み切れる柔らかさ。何より「肉食べた!」という満足感が非常に大きい。

このほか、冷麺、ビビンパ、チヂミ、季節のサラダやらわか玉スープ、牛スジ煮込み、ナムルやキムチなども食べ放題。焼肉が食べれなくても楽しめるかもしれないくらいだ。もちろん3580円になるとローストビーフや煮込みハンバーグなどメニューが増えるのは言うまでもない。

冷麺_ワンカルビ

そしてそして、両コースとも1人1点限りだが、デザートが頼めるのだ。もちろん、シャーベットがただ更にのってるような、そんな安っぽいデザートなんかではない。例えば、「デニッシュ仕立てのマンゴーフルーツサンドバニラアイス添え」や「コーヒーとザクザクチョコケーキのパフェ」など、そこらへんのカフェには引けを取らないような立派なスイーツなのである。見た目も美しく、味もよい。男は別腹という概念を初めて理解できた気持ちになったものだ。

ワンカルビデザート

ついつい、次回は、あれを食べよう。この順番で注文しようなどと、お腹はいっぱいで苦しいくらいなのに、考えてしまうのだ。

限界まで食べても、なおも、食べることを考えてしまうとは、相当満足し、幸福に満ちたりていたのだろう。

なぜこんなにも満足感が得られるのか、男は考えた。

ガストやサイゼリア、スシローなどで好きなだけ食べて良いと言われても、3080円までお金を使うことは少ないだろう。そして確かにお腹はいっぱいになるが、中にはこれは美味しくなかったと感じるハズレメニューもいくつかあり満足度は下がる。ワンカルビは凄く高級というわけでは決してないが、ハズレがないのだ。どれもキチンとしている。男にとっては粗悪なものが排除されているのは非常に価値が大きいのだ。それでいてべらぼうに高いわけでもない。なかなか、こんな気持ちになれる食べ放題はないのではないかと思う。

男は、良い店を見つけたものだとテンションが上がってしまったので、欠点が見えていないだけかもしれないと思っている。いくつになっても落ち着きが足りないのだ。ついつい食べ過ぎてしまう食べ放題が男にとって良い選択肢なのかは正直わからない。でもワンカルビ新座店が良い店ということだけは迷わずに言える。

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