SoEってなに
今回はいつもの、ITワードを簡単に説明するコーナーをエントリーしようと思ったのですが、選んだITワードが比較的ニッチなところだったかもしれません。SoEって聞いたことありました?
まずは一旦言葉を整理しましょう。
SoEは「System(s) of Engagement」の略称で、エンゲージメントとは約束などと訳されることが多いけど、ここでは「顧客の興味や注意を引きつけ、企業と顧客の結びつきを強める」というマーケティング用語としての意訳が適しています。
なので、SoEは人との関係を構築するためのシステムと言われることが多いです。
ここで、SoEの言葉の整理を進める前に、SoEとセットで出てくる言葉、SoRについても比較対象として簡単に定義しておきます。
SoRは「System(s) of Record」の略称で、こちらは単純に、記録のためのシステムと言われます。従来のシステムは取引などの記録のための用途が多く、レガシーシステムのほとんどがSoRという概念のシステムといっても過言ではないかもしれません。
- SoE→人との関係を構築するためのシステム
- SoR→記録のためのシステム
何が違うのか。目的が違います。
人の興味は時間とともに移ろいゆくものなので盛り上がっているうちに手を打ちたいという目的。逆に記録は間違うことは許されないので時間をかけてでも品質を担保したいという目的。そして目的が違うなら、手段だって別だろうということで、これらの言葉が使われ始めたのではないかと思っています。
つまり、
- SoE→人との関係を構築するためのシステム→速度が求められるので、アジャイルという開発手法で比較的短めのサイクルでの開発が向いている
- SoR→記録のためのシステム→品質が求められるので、ウォーターフォールという開発手法で長い期間をかける開発が向いている
という形で表現されることもあります。
あれ、開発手法の比較(アジャイル vs ウォーターフォール)という不毛な議論になりそうな話になってきました。
個人的には、アジャイルだろうがウォーターフォールだろうが、開発手法の名前はどうでもよく、開発手法も自分たちで一番合った開発手法を勝手に作ればよいと思っています。
さて、もう一度、振り返ってみます。
- SoE→人との関係を構築するためのシステム
- SoR→記録のためのシステム
何が違うのか。利用されるシーンが違います。
従来から利用されてきて、顧客を管理したり履歴を管理している社内ITシステムがSoRと呼ばれます。一方、SoEは、SNSへの投稿に対していいねや拡散などの良好な反応によってエンゲージメント率を高めるためのシステムであったりすることから、 顧客が直接操作する(SNSサービスのUI)ようなシステムがSoEと呼ばれるのでしょう。
- SoE→人との関係を構築するためのシステム→SNSなどの顧客視点を意識したシステム
- SoR→記録のためのシステム→従来から存在する(レガシーな)ITシステム
とも表現できますね。
さあ、SoEが新しく、SoRが古いという先入観を植え付けたところで、SoEについて深堀したいと思います。
SoEは顧客視点でシステムの全体最適を図っていきます。従来の手法だけではどうしてもリリースまでの期間がかかりすぎてしまったり、外部API(社外のリソース)と連携にスピード面で追随できなかったりする部分をテコ入れします。そもそも、データのあり方(持ち方)として顧客中心となっていなければ、データモデル自体を変更して、より顧客の興味に対して柔軟なシステムへと変化させて行きます。
全体最適のなかには、記録する部分に関しては従来どおりSoRの考え方でシステム構築して、見た目の部分だけを顧客視点で構築する、など適材適所で使うという意味が含まれます。
そう、実はSoEとSoRは別に対立する概念ではないのです。
例えば、
SoRによって記録されたデータ(購入履歴のビッグデータ)を解析をしてみたところ、特定のセグメントのお客様層において、よく購入されている商品が見つかりました。そこでSoEとしては、特定のお客様の画面だけに、その商品を表示させてあるような仕組みを構築します。いわゆるレコメンド機能ですが、お客様からすれば、自分のことをわかってくれている会社となり、企業側からすれば効率の良い広告となります。もちろん、期間限定セール時などはレコメンドとは別にそもそもお得な情報を表示したほうが顧客にも企業にもよい場合でもSoEならば高速に画面変更を行えます。
すなわち、SoRとSoEは組み合わせて使ったり、適材適所で使い分けるものなのです。
SoEとは顧客中心の考えにより構築されたシステムです。それは既存のシステムとは別物というわけではなく、既存のシステムと連携しながら全体最適な機能配置を狙ったシステムデザイン概念のお話でした。
これでSoEの説明を終わりたいと思いますが、追加で SoI「System(s) of Insight」という概念もあります。インサイトは洞察と訳されることが多いので、洞察するためのシステムと言われております。
SoRのビッグデータをSoEに生かしたり、逆にSoEから得られた顧客の行動データ(もしくは集合知)をSoRに生かしたりすることは、先ほどのSoEとSoRの組み合わせの説明どおりなのですが、SoIはそもそも組み合わせを発見するための仕組みを提供します。つまり洞察するためのデータ分析や解析を行うシステム自体がSoIということです。
色々と説明してきましたが、SoEやSoR、SoIについてはなかなか理解が難しい言葉です。
そして人によってはSoEはアジャイルのことして利用していますし、人によってはSoRを基幹システムという意味で使っています。それらは決して間違っているわけでもないのです。つまり、この言葉を使うときは慎重になったほうがよいです。文脈や使う人によってガラリと意味が変わる言葉です。
SoEとかSoRというシステムがあるわけではありません。目的もなしにそれらを導入しても何のメリットもありません。目的に合わせて適材適所の仕組みを考えようと言っているだけです。(アジャイルとかウォーターフォールという開発手法を使えば品質を保てる、わけではないのと同じ話です)
SoEとかSoRで大事なのは、その言葉の概念どおりのシステムを作ることではありません。従来のやり方にとらわれず、目的に最適な仕組みを取り入れたい場合にのみ、これらの言葉を使うことが生きてくると思います。
逆に言うと、あやふやした言葉はカッコつけるときには使い勝手が良いとも言えるかもしれませんが。