銀輪の巨人を読んで

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この本はGIANTの経営者の人柄と社史を通してその成功の鍵を紹介しつつ、日本の経済に警鐘をならすビジネス書です。

「経済」「自転車」「グローバル」のキーワードに引っ掛かる人がいれば大変お勧めである。 ただし、そのうち「自転車」のウェイトが大きいのでそこに興味がない人には響かないかもしれない。

今回はこの銀輪の巨人を読んでの感想ですが、まずは自分の自転車論から。

移動手段としての自転車

一番自転車に求められている分野で実用性が重視される部分。カゴがついていたり、比較的頑丈であったり。

すでにこの分野の自転車は完成されているし、地位もある程度獲得している。 そしてこのニーズはなくならないだろう。

しかしそれに甘んじてはいては危ない。

例えば自転車と同じくらいのスピードがでるセグウェイのようなものがもう自転車と同水準まで安くなり、 公道でも自由に乗れるようになったら、移動手段としての自転車は恐らく減っていくと思う。

そういった意味でも価格はまだまだ重要な要素だ。

じゃあ、もっともっとカイゼンして、コストカットもして、価格を下げられるか。

既成概念を壊すくらいのアイデアがないと、完成品としての自転車のさらなるコストカットは難しいだろう。

例えば、頑丈さには目をつぶって使い捨て自転車とか、人件費をかけないで制作できる自転車とか。

スポーツとしての自転車

ツールドフランスなど世界的に注目されている大会があるのは、とても有利なことだ。

1秒を競うアスリートが乗る自転車には、テクノロジーとブランドの両方が搭載されている。

それは自転車の付加価値を充分にあげてくれる。

逆にこのスポーツの分野に入りこむことにより、テクノロジーとブランドは日進月歩の進化を強制され、ユーザを飽きさせない。

ただしこのスポーツに参入しているメーカーも数多くいて、既に飽和状態であることも追記しておく。

それゆえメーカー各社の特徴が出しにくい状態でもある。

また、ツールドフランスレベルの知名度のある大会でも、その宣伝効果がかかる費用を上回るかどうかは難しいところだ。

もちろん新しいテクノロジーにだって費用もたくさんかかる。なかなかに敷居が高い。

そして新規参入するにも投資したチームが結果を残さなければ水の泡。サイクリストは結果もしくは歴史/ブランドを重んじるのだ。

趣味としての自転車

ほとんど誰でも自転車に乗れるというメリットは大きい。自転車に乗るはすごく簡単というわけではないはずなのに、大抵、みんな訓練して乗れるようになっている。

そして自分の足で歩いたり走ったりするよりも快適であることを知っているのだ。

つまりレースまで本格的なものには興味ないけど、 休日にちょっとしたアウトドア気分を味わえるとか、初期投資だけで継続するためのお金がかからない(イメージだけで本当はランニングコストは存在するが)とか、 健康にもダイエットにもいい自転車は趣味としてはもってこいだ。

イメージが先行している部分もあるかもしれないが、趣味としての自転車は将来性があると思う。

ただし、自転車本体が必要な時点で気軽さは損なわれる。しかもその自転車本体が大きいため保管が大変である。

あとは実用性としての自転車とスポーツとしての自転車がほとんど別物であることの認知と、快適に乗るためにはある程度のお金が必要という啓蒙がまだまだ必要。

自転車を取り巻く環境や時代の流れ

エコロジーであるとか健康によいとか、雑誌で特集が組まれるくらい、自転車に乗る人が増えてきている。

これが好機なのは間違いない。 この時代の波に乗っていれば、どんどん自転車が売れて、自転車関連は盛り上がっていくかというとちょっと疑問である。

自転車を走る場所はどうだろう。

車道だったり、歩道だったり、特に日本の狭い道や、交通量の多い道は、走っていて気持ちいいものでもなかったりする。

道は自転車だけのものじゃない。車だったり、徒歩だったり、ランニングだったり、はたまた動物だったり。

すでに飽和状態の道だってある状態で、新規の自転車乗りが入り込む余地はあるのか。

それとも移動手段以外の自転車は少し郊外の空いている道を目指すべきなのか。

そういった意味で、ママチャリ以外の自転車にはあまりいい環境が整備されていない。

サイクリングロードが整備されていたとしても、安全のためロードバイクで飛ばすことはできないのが実情なのだ。

感想

ということで自分なりではあるけど、前提条件を共有できたところで、銀輪の巨人の紹介と感想を。

自転車業界だけではないが、人件費が安いほうへ生産工場は作られる。

それが日本から台湾、そして中国へとシフトした。その流れは止められない。水は低きに流れるのだ。

そうやってコストが抑えられた自転車が生産されていく。 今や日本では中国よりも安い自転車は作ることができない。

同じ状況であるはずの台湾の、その国を代表するGIANTはこの課題についてどう対処したのだろうか。 というお話でした。

GIANTはカリスマ経営者のもと、様々な努力や挑戦をしてきて、それが結果にもつながっている。

では日本はどうなんだ?かつての自転車王国が衰退の一方じゃないか。

これは自転車業界に限った話ではなく家電の分野でも台湾、韓国に追い抜かれているよ。

その原因の一つとして日本のメーカーはあきらめが速すぎるという部分には納得。

日本企業って長期的なプロジェクトになればなるほど、慎重になるんだよね。

確実に儲けがないと長期での賭けはできない。 重い腰を上げたとしても、少しでも雲行きが怪しくなると傷が浅いうちにって撤退しちゃう。

もちろん、それも立派な戦略だとは思う。

どんどん儲けを得てどんどん拡大路線を突き進むのと、分相応な感じでよいじゃんとリスクは回避すべきと慎重に進むのではそれぞれ一長一短だし、 リスクが少ないからこそのブランドってのもある。

ただし、新しいことをしたり、既存の環境を変えるには、前者の突き進むエネルギーが必要となってくる。

そして台湾は一丸となってそれをがんばったので”今”がある。

リスク回避をしすぎて、あるいは慎重になりすぎて日本は何もできないまま落ちぶれて”今”にいたった。

と筆者は考えているようだ。

ちなみに本を読んでいただければわかるとは思うが、GIANTはイケイケドンドンな会社でもない。

自分としてはいろいろとGIANTの歴史や理念を知れたので、ブランドイメージが少し良くなりました。

もともとちょっと品質悪いんじゃないか?と低めに見ていた部分もあったけど。なんかすみません。

GIANTの話も少し紹介しておくと、台湾では移動手段としてスクーターなどバイクが一般的。

そこには自転車が入り込む余地は少ないし、なによりコスト重視のこの分野で中国には太刀打ちできない。

ということで趣味~スポーツのレンジにある自転車の楽しさをアピールしている。

そのレンジの自転車をたくさん作ったり、カンバン方式やらでコストを抑えているので、他社に比べて競争力のある価格帯で提供されている。

GIANTが提供する付加価値はまさにこれ。単純な移動手段ではなく、高級路線としての自転車をより安く。

この高級なのに安いという絶妙なバランス感覚が良いのだと思う。

日本の自転車事情をもう一度考えてみる

移動手段としての自転車がメインかと思われるが、大事に乗り続けていこうというよりも壊れたら乗り変えよう的な扱いになってしまっている感じ。

日本のメーカーが自転車に追加している価値としては、安全性や耐久性をアピールしているが、あまりマッチしていないと思われる。

方向性としてはよいと思うけど、その価値の値段はいくらくらいなんだろう。メンテナンスフリーの部分とかも加えて、すぐ壊れて交換より、長持ちした方が結果として経済的である的なアピールをしてもいいんじゃないだろうか。

あとは日本のスポーツ車はブランドが弱い。

メーカーが本気で自転車に力を入れてないんじゃないかっていうイメージが払拭できない。

アンカーとかパナソニックはフレームのカスタマイズ性が売りの一つなんだろうけど、それで何ができるのかが訴求されていない気がする。

あとは子供用の自転車にはもっと宣伝費をかけてもいいかと思う。はじめての自転車は安心安全の日本ブランドの自転車みたいな。子供用は実用性重視ではないはず。

ということで日本の自転車業界がとるべき道はブランド戦略がいいんじゃないか思う。

自転車選ぶ際に気にする部分としては、どのブランドなのかってとこは非常に大きい。

特徴が出しにくいと先ほど書いたばっかりだけど、逆にいえばロゴくらいしか差がないところもある。高級自転車は嗜好品でもあるわけですし。

ブランドを作るためには、プロチームにスポンサードするとかももちろん有効だけど、品質に自信を持っている(であろう)日本のメーカーこそ、品質保証を付けるなりしてもいいんじゃないでしょうか。

1年間はエンドなど補修部品の交換は無料とか、2年間は無償修理を保障するとか。

周辺のパーツ部分も妥協せずにブランドで統一してもらいたい。初心者こそ純正品は好まれる。

完成車買ったときに、良く分からないハンドルやサドルがついているとがっかりする。 もちろんブランド名のシールだけ貼りました的なのはお断りだけど。

あと、日本人は、日本人向けに頑張ったとしても見向きもされないので、世界にうってブランドを確立しなければダメだと思います。

自信がなかなか持てない日本人は、愛国心より虚栄心のほうが少し強いからね。でも他人に評価された身内はすごく優遇されますよ。

ブランドがダメなら技術分野。

電動アシスト自転車はもっと軽く、もっと安くなれば、ママチャリ分野に少しは喰い込めると思うし、 タイヤよりも小さく折りたたむ事が出来る自転車とかできれば、置き場所にも困らないかもしれない。

ということで1冊読んでここまで想像が広がったという意味ではとてもよかった本です。でも自分が自転車に興味なかったら絶対読んでなかっただろうな。

おまけ

想像が広がったついでに、ふと新しい自転車屋さんのアイデアを思いついたので記述しておく。

ただ単に自分があったらいいなと思っただけなんだけど、高級自転車をメンテしながら預かってくれるサービスがあったら便利だし、お金を払っても良いかなと。

ということで、狭い日本の家屋事情を踏まえて自転車置き場であるガレージを提供するお店を考えた。さらにそこからいろいろ付加価値をつけていったら面白いかと。

  • ガレージ プラス ディスプレイ

他人の自転車と一緒にディスプレイされていたら、かっこいいかなって。でも嫁様に内緒でかった部品を隠すために個人ロッカーは必須か。

  • ガレージ プラス メンテナンス

どうせ預けるなら、メンテもして欲しい。自転車屋さんに自分の自転車へのアクセス権を与えれば勝手に取り出してメンテしてくれる。

  • ガレージ プラス レンタル

高級自転車の試乗目的や自転車買えない人向けにレンタサイクルもする。保険にも入ってもらうぜ。 ウェアとかもレンタルできたらうれしいのかなぁ。自分はレーパン共用したくないからナシにしよう。

  • ガレージ プラス シャワー室/更衣室

都内のランニング施設みたいな。温泉にしてもらえるとさらにいい。

  • ガレージ プラス 工具貸出
  • ガレージ プラス 試乗コース
  • ガレージ プラス チーム練習

とか夢が広がるね。

都内近郊でサイクリングロードの近くにでっかい土地を購入してできてほしい。メーカーからの協賛金とか集められないかな。 市とかに交渉して公共交通手段も充実してもらいたい。

でもその店を中心とした自転車渋滞や事故が増えそう。 メンテナンスの範囲とかきちんと決めないとトラブルの原因になるな。持ち込みパーツの扱いとか。 そもそもオペレーションが大変かつ自転車のスキルが必要なので、従業員集められなくてすぐに終了しそうですが。

とまあいろいろ自転車業界を想像してみるのも楽しかったりします。

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